医師になって数年、専門科も決まって、ある程度仕事にも慣れてきた頃。
なんとなく知っている疾患やよくある病態ばかりを診るようになって、仕事にも慣れてきたかなと思う一方で、「なんだこれ、全然知らない」みたいな症例にも当たるわけで。
あるいは、今まで経験したことはないけど、「うわー、これ来たらうまく対応できるのかな」みたいな疾患を想像してビクビクしたり。
いずれにしろ、上手に対応するには勉強するしかありません。
ですが、医師はどうやって勉強すればいいんでしょうか?
今回は、多くの医師が使っている情報収集ツールについて簡単にまとめてみました。
情報収集のコンセプト
何のための文献検索なのかを意識する
自戒の意味を込めて書きますが、何のためにいま文献検索をしているのか、ということは常に考えておいた方が良いです。
「特定の疾患について調べるために医学誌をみていたら、ほかにも興味のある特集がされていたのでついつい通読する気になってしまった」
「関連しそうな情報を集めていたら資料の数が増えすぎて、結局どれを読めばいいのか分からなくなった」
そんな経験はありませんか?
個人的な印象ですが、こういったパターンは、きっちりしていて完璧主義なひとに多いようです。
情報を一度網羅しないと気が済まないような方が多い。
医学文献に限った話ではないのですが、同じ資料を読むにしても、読む目的によって得られる情報が変わってきます。
「自分が欲している情報が何なのか」、つまり、「何がわからなくて、何を知りたいのか」を明確にしない限り、たとえ適切な資料を目の前にしても十分な情報を得られないでしょう。
繰り返しになりますが、効率を追求するのであれば、文献検索の目的を意識しましょう。
まずは問題解決に必要充分な情報を集めることに専念するべきです。
関連する文献を次々に読みたくなったとしても、目の前の問題が片付いてから、また後々読み返せばよいのです。
医師になってからも日々勉強、勉強。 ただし、学生時代のように、まとまって勉強する時間はなかなかありません。 インプットしても、数年もしないうちに情報はアップデートされて、せっかく暗記した内容も古くなってしまいます。 夜な夜な詰め込んだ[…]
情報収集ツール①:目の前の問題解決のために
検索性が高い情報ソースが最適です。また、可能な限り最新の知見が盛り込まれているものを選ぶようにしましょう。
UpToDate
「困ったらまずはUpToDate」という先生は多いハズ。
- 専用のAppがあるためにiPhoneなどでも手軽に利用できる
- 中規模以上の病院であれば契約している施設が多い
- 海外の知見がベースになっていて、日本の実臨床にそぐわない部分がある
個人で契約するのはハードルが高めですが、施設契約があれば積極的に利用しましょう。
英語が苦手!という先生には、翻訳ソフト『DeepL』がオススメです。
英語論文を読むのって、はっきり言ってメンドくさいですよね。 ぼくなんか、抄読会の準備は毎回てんやわんやでした。 そもそも英文を読むのが大学受験以来だったし、医学英語なんて全然わからないし。 そのうえ、いろんな科をローテートする[…]
医中誌やメディカルオンライン
日本語でそれなりに内容のまとまった文献を検索できます。
日本の実臨床に即した総論的な話に加え、著者の先生の経験なども書かれていることがあり、意外と痒い所に手が届くような資料にもしばしば出会えます。
また、若手が悩むようなことは、大体商業誌にまとめられていたり、繰り返し特集されていたりするので、直近数年分ぐらいの資料を見るだけである程度カバーできるでしょう。
ただし、出典によっては各著者の考え方に偏りがあることも少なくないため、資料の出典元も確認する癖をつけると良いです。
PubMed
総論や一般的な各論では対応し切れないようなプロブレムや希少疾患については、Case Reportを求めてPubMedに頼ることもしばしば。
難症例ばかりが集まる大学病院のような施設では、専門の経験豊富な先生方でも診断・治療をしたことのないような症例が来ることがあり、PubMedで類似症例を探して診療の参考にされています。
適切な文献を探し当てるのになかなか苦労することもありますが、各施設でPubMedの使い方についてのガイダンス資料が準備されていることも多いと思うので、参考にしてみてください。
他の人に聞く
「他人を頼る」というと聞こえが悪いですが、結局これが一番手早い解決方法でもあります。
ただし、誰に聞くかで得られる答えは変わってきますよね。
問題解決のために必要な情報だけを端的に教えてくれるのか、頭ごなしに「自分で考えろ」とあしらわれるのか、質問する側の能力や学習レベルに応じて話をしてくれる・自身での問題解決を勧めてくれるのか…。
そういう意味では、どんな上級医と共に働いているのかや、質問する側の理解度によっても、期待する結果になるかどうかは変わるでしょう。
情報収集ツール②:網羅的に知識を集める
専門性を高めるためであったり、論文を作成したりするためには、特定の分野に特化した情報収集が必要になります。
成書の通読
学生のうちは、「何が大事なのかわからない」ということも多いでしょうから、とりあえず総論的に学習をするしかありません。
また、卒業後に数年の間実臨床を行ったのちに、自分の理解が足りないと自覚した部分、特に興味を持った分野に関して、成書を通読して知識を強化したくなる欲が出てくることもあるでしょう。
勉強会に参加する
最近はオンラインで様々な勉強会が開催されていますね。
多少お金がかかるものもありますが、興味のあるテーマでまとまった内容を話してくれるものが多いです。
- 一般診療について…感染症、輸液など
- 特定の分野の専門家のオンラインセミナー
- 臨床研究の進め方について
- 海外留学について経験者にインタビュー
医療者向けの無料メーリングリストに登録していると、この辺りの開催情報がどんどん入ってきますよ。玉石混交ですが、はじめのうちは興味があるものにバッと飛びついてみると良いでしょう。いくつも参加していると、勉強会の良し悪しや自分に合う合わないがわかってくるようになります。
専門ジャーナルを読む
「循環器」「呼吸器」などの一般的な専門医の枠組みから、より細分化されたサブスペシャリティ、さらには特定の病態や疾患、分野に特化したようなものまで、さまざまなジャーナルがあります。
もしあなたが、どの分野を専門とするのか決めているなら、その分野の先輩におすすめのジャーナルを聞いてみると良いです。
ただし、一人で全てのジャーナルを通読するのは効率が悪いので、抄読会などを効率的に利用しましょう。
情報収集ツール③:トレンドのスクリーニング
「よく分からないけど、とりあえず何かしら情報収集した方がいいかなと思っている」という、そこのあなた。素晴らしい姿勢だと思います。
暇な時に巡回するだけでも簡単に得られるものがあるような情報ソースについてまとめてみました。
学会のホームページ
意外と見落とされがちですが、大事。
特に最近は、各学会でコロナがらみの通達がよく出ていますね。
メーリングリストで最新情報を知らせてくれる団体もあれば、自分でホームページを逐次確認しなければいけない団体もあります。
ガイドラインの更新など実臨床に関する情報だけではなく、専門医の制度の変更などの情報も載っています。 定期的に確認するようにしておきましょう。
メーリングリスト
大体どんな話がホットなのか、ぼんやり眺めているだけでも何となくわかってきます。しかも、前述のように勉強会の案内もしばしば流れてくるので、興味があるテーマを見つけてから深掘りするまでが比較的スムーズかもしれません。
医学誌
「最新の知見をまとめた」みたいな特集が定期的に組まれていることが多いです。いろいろな施設の先生のご意見も含めて、後期研修医ぐらいであれば理解できるような内容にまとめられています。
これまた全部目を通していると時間がなかったりするので、「トレンドのスクリーニング」のために読むのであれば、ざっと目を通すぐらいにしておきましょう。 この目的であれば、医中誌でチマチマ検索するよりは、紙媒体で一気に読んでしまう方が楽だと思います。
医師向けサイトを利用する
医療関係のニュースなどは、一般のニュースサイトよりもやはり多いですね。
医学情報自体を収集するというよりは、特定のニュースに他の医師がどういう意見を持つのかを知るために役立つイメージです。
SNS
僕はまだ利用していませんが、これが存外馬鹿にできないかも。
ただし、いわゆる「インフルエンサー」の意見が大きな割合を占めていることもあるため、情報の真偽の見極めは慎重に。
個人的には、医学情報を集めるというよりも、非医療関係者がどんな医学情報にどんなふうに反応するのかを観察する目的で使えるかなと思っています。 患者さんが何を不安に思っているのかを把握する役に立ちそうですよね。
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