新年度が始まって数ヶ月経ちましたね。思っていた通りに仕事ができている人、そうではない人。研修医の先生は、ペースがまちまちでしょう。上級医だって、異動や昇進があったり、新しい仕事が増えたりと慣れない環境にいる人も少なくないはず。
だんだん仕事に疲れてしまい、ふと「仕事をやめたい」と思うことがあるかもしれません。
今回は、ぼくがかつて「研修医をやめたい」と思った時に出会った本を紹介します。
仕事に真面目に取り組む研修医の先生たち。医学知識や手技の習得に全力で、優秀な研修医を「デキレジ」なんて呼ぶのも流行りましたね(まだ残ってる?)。でもぼくは、研修医の先生にそれ以外にもぜひ目を向けて欲しいことがあります。みずき[…]
ぼくが研修医をやめたくなった時のこと
研修医1年目の終わりのことでした。自分なりに勉強を進めて、救急外来も入院対応もそれなりにこなせるようになり、上級医ともうまくやれるようになって。
そんな中で、ぼくが関わったアクシデントがきっかけで、患者さんが重篤な転機をたどりました。上級医との話し合いの場があったり、院内の医療安全委員会に出席したり。日々の業務の中で、アクシデントを振り返る機会が繰り返し差し込まれてきました。そしてなにより、患者さんへの申し訳なさ。周りは気を遣ってくれましたが、「あのときああすればよかった…」という思いが頭の中で繰り返し湧き上がってくるということが数週間続きました。
そんな中で、「仕事を辞めたい」という気持ちが出てきました。患者さんにも申し訳ないし、周りの気遣いにも耐えられなくなってしまったんです。
「仕事を辞めたい」。そのためには何をしたらいいのか。仕事を続けなくてもいい方法はないか。そんなことをぼんやり考える日々でした。
読んで気持ちが軽くなった本
「やりがいのある仕事」という幻想
作家の森博嗣氏が書いた、仕事に対する姿勢の本です。「仕事」というものをそもそもどのように考えるのか。
ぼくはもともとこの作家さんの作品をよく読むんですが、なんというか斜に構えた物の見方をするようなところが好きでした笑。いい意味で割り切ったというか、余計なことにとらわれずに本質をとらえるような考え方がとても印象的です。
「患者さんのため」「やりがい」「社会貢献」…医者は得てして、そういうものを踏まえて仕事をしなければいけないと思われがちです。なにより、ぼくら医者自身がその考えに囚われすぎてしまっているのかもしれません。
この本は、そういった考え方から少し離れた立ち位置からの見方を教えてくれるはずです。
「上手くいかない」のも仕事のうち
とにかく、そんなに恐れたり、思い悩んだり、落ち込んだりするほどのものではない、と考えて良い。ただ、あっけらかんとしていると良い印象ではないので、思い悩んでいる振りくらいはしておこう。
森博嗣 「やりがいのある仕事」という幻想
うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち
「うつ」との向き合い方についてのマンガです。「うつ」を経験した作者が、他の「うつ」経験者との対談を重ねて作られたそうです。
ぼく自身が「うつ」と言える状態だったのかどうか、今でもよくわかりません。ただ、落ち込んだ時にどう考えたらいいかという選択肢をいくつも持っていられたのは、なんとなく心強いものでした。単純に読み物としても面白く、メンタリティによらず一読をオススメします。
気分が落ちた時…
それは「人生の自習時間」なんだと考えて
自習時間にふさわしい「やるべきこと」を見つけておくんです田中圭一「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」
本当の自由を手に入れるお金の大学
「内面的な部分に向き合う本」とは毛色がちがいますが、これもご紹介。「お金をいかにふやすか」について、無理のない範囲で実践できる内容から解説している本です。
これを読んだのは初期研修医の頃ではありませんが、専門医取得後にも仕事を辞めたくなったことは少なからずありまして…。
「仕事を辞める」ということをより現実的に考えようとした時に、まず生活基盤を固めたいと思って読みました。金銭的なやりくりを最適化すれば、今の仕事を辞めて、給料が低い仕事を選ぶことになっても生活に余裕はできます。
結局仕事は辞めていませんが、この本の内容は今でも役に立っています。
多くの人が自由になれないのは、お金がないからです。お金がない原因は、お金について真剣に学んでこなかったからです。
私たちが「読み書き」できるのは、それを学んできたからです。お金がないのは、お金について学んでこなかったからです。とても単純な話です。
両学長「本当の自由を手に入れるお金の大学」
「勤務医の給料は減る」...最近よく耳にするようになりました。ぼくが医者になった頃は「これで将来安泰!」なんて思ったものですが、それから10年も経てば時代は変わるものですね。医師免許を持っているだけでは、将来安心できないみたいです。かといっ[…]
医師の研修をドロップアウトする前に読む本
正式なタイトルは、『医師の研修をドロップアウトする前に読む本: ドロッポ医で何が悪い すべての初期研修医、後期研修医への生きる知恵 パワハラ辛い、残業代が出ない、うつ病になりそう、そんなあなたへ』です。
ぼくもよく動画を拝見していたのですが、まさか「ドロップアウト」を経験しておられるとは全く想像していませんでした。
仕事の負担が大きいため、医局をやめてうつ病の治療を継続しながら、ゆったり働けるぐらいに回復してからだったそうです。
- うつ病の治療
- パワハラや労働問題との戦い方
- 労働について法的な視点を持つ重要性
加えて、「『医師としてあるべき姿』にこだわりすぎる必要はない」というメッセージも込められていると感じました。
ぼくがこの本を読んだのは最近になってからのことでしたが、落ち込んでいた当時にぜひ読みたかったですね。
なぜ土木作業で働いている人は安全のための講習会とか多企業との会議に行くと残業代が出るのに、営業マンは飲み会が労働なのに、医師は学会のプレゼンをつくったり手術の練習をしている土日は残業ではないのですか?おかしいですよね。
勝木 将人「医師の研修をドロップアウトする前に読む本」
「研修医をやめたい」と思っているあなたへ
ぼくの場合は、読んだ本が気持ちの疲れを癒してくれたり、職場やプライベートでサポートしてくれる人がいたりといったラッキーが重なり、仕事を続けられています。
どうしても辛くなったら、辞める前にまずは一度休みを取ることをオススメします。当直業務やバイトがあろうが、担当患者がいようが、論文や発表の準備があろうが、なにもかも置いて休んでしまう。思い切るのが難しい職場もあるとは思いますが、無理をし続けて心や体を壊さない方法を選んでください。